Vol.1の「アイアムザウォルラス」に引き続き、”シェイクスピア作品にまつわるポピュラー音楽枠”として、カナダのロックバンド、ラッシュの「ライムライト」をテノールとチェロのデュオのために編曲しました。前回の投稿で佐藤くんが書いているように、歌詞に『お気に召すまま』第2幕第7場のジェイクイズの名台詞が引用され、バンドとしての成功を予感しながらも、頼むから放っておいてほしいと葛藤するさまが歌われています。私は今回初めてラッシュというバンドを知り、もちろん「ライムライト」も初めて聴きました。佐藤くんは編曲作品の候補を他にも数曲あげてくれましたが、その中で圧倒的に音楽的に面白く、編曲し甲斐があると思ったのがこの曲でした。 前回の「アイアムザウォルラス」の編曲は、サイケデリックといわれている原曲のサウンドを、チェリストふたりというごく限られた編成でどう表現するかに重きを置きました。結果的に、チェロでできる奏法のほとんどを駆使した、少しサディスティックな(?)編曲になりましたが、今回はサウンドに注目するというよりも「ライムライト」の音楽的な要素をより拡張するという方向性での編曲になりました。 この曲で特徴的なのが、拍子の頻繁な変化です。3/4拍子、4/4拍子の交代によるイントロに始まり、3/4拍子、4/4拍子の交代に時折2/4拍子の入るAメロ、3つのコードがオスティナート風に繰り返されるサビの前半は3/4拍子、後半は4/4拍子、となかなか複雑です。それでいて、音楽の流れはごく自然で、まったく小難しく聴こえないのが素晴らしいです。ということで、イントロや間奏などで、この曲ならではの変拍子のつくりを拡張した、より複雑な変拍子にして遊んでみました。Aメロやサビは、原曲に寄り添った編曲にしてあります。 さらに、複数の歌い手が交互に歌い、補完的にひとつのリズム又は旋律を編み出す「ホケトゥス」という、中世ヨーロッパ音楽で用いられた方法を意識し、古楽が専門の市川さんに歌っていただく意味も付け加えた”ホケトゥス風ライムライト”といった仕上がりになっています。 編曲の仕事は、新曲を書いているなかで、ある種の息抜きになり(!)、楽しくて大好きです。私が編曲をするときに心がけているのは、条件と場合にもよりますが、原曲が持っているものが第一で、それを尊重しながらも自分のつくりたい音楽との接点を見つけ出し、新しい曲としてつくり直すように編曲するということです。そういう編曲をしないで私が編曲をする意味はないと思っています。原曲にまず向き合い、自分の思いつく方法のすべてをつくして何度も話しかけ、何かしらの関係性をつくろうと努力します。そうするといつか向こうから、こういう曲にしたらいいよと語りかけてくれます。 チェロとテノールによる「ライムライト」は、さいたま公演、東京公演Ⅱ、東京公演Ⅲと3度演奏されますので、ぜひ聴きにいらしてください! 次は、今回の新曲について投稿する予定です。 桑原ゆう
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今日はVol.2の見所をご紹介します!
“げん”結びVol.1では桑原ゆう編曲のBeatles『I am the Walrus 』(チェロ二重奏版)をプログラムしましたが、「Vol.2でもロックな曲を!」ということで今回はカナディアンプログレッシブバンド:Rushの『Limelight』を取り上げることにしました。 ラッシュは68年にカナダのトロントで結成、74年にデビューしたスリーピース・バンド(3人組)で、最初のうちはレッド・ツェッペリンの影響を受けたハードロックバンドだったようです。デビューして間もなくメンバー交代の影響もあり、77年頃から徐々にプログレッシブ・ミュージック色が現れてきます。 今回取り上げる『Limelight』は81年に発売された『Moving Pictures』というアルバムに収録された作品です。ラッシュはこのアルバムでカナダのチャートで初めて1位を獲得し、81年のビルボード200と全英アルバムチャートでも3位に入りました。歌詞の後半にはシェイクスピアの『お気に召すまま』2幕7場ジェイクイズの名台詞“All the world’s a stage, And all the men and women merely players”(全世界は一つの舞台であり、すべての男女は単なる役者にすぎない)をアレンジした歌詞が登場します。 “げん”結びでは、テノールとチェロの編成で『Limelight』を発表します。ラッシュがアレンジした歌詞は、テノール歌手・市川泰明さんの生の歌声で是非お確めください、お聞き逃しなく! また桑原ゆうが作品をどのようにアレンジしたのでしょうか、その聴き所は次回に。。。 佐藤 |